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三島由紀夫「命売ります」に見る魂の叫び

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シリアスな娯楽小説

1968年に発行されたこの小説は、三島独特の死生観を以って、全編に陰気な雰囲気が流れる中、どこかシュールで面白く、流れていくように物語は展開し、飽きる事なく一気に読む進む事が出来ます。260ページなので、量もさほど多くありません。

昔の小説でありながら、ここ最近になってどこかで話題に上がっていき2015年には7万部重版しています。死をテーマにしていながら、表現にクセはなく、分かりにくいと感じる事もないので、そこがウケたのでしょう。

この人の小説は厳粛で所々で難解です。「潮騒」は三島の代表作ですが作風で言えば例外的で、とても爽やかな純愛小説です。その初めて読んだ三島作品で抱いた感覚のまま「金閣寺」を開いて衝撃を食らった事があります。「命売ります」は、【読みやすい・三島由紀夫らしい】という点でどちらでもない中間でしょう。

72e9d8eb80c61356d263f0ca7ef570c751605eff1373581806(マッチョに憧れていた三島由紀夫)

 

あらすじ

広告代理店で広告のコピーを書いていた主人公・羽仁男はゴキブリの人生を平凡な生活に見て、自殺を図るが失敗に終わる。そこに自由の世界が開け、新聞に「命売ります」と広告を打つ。

命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません。

依頼人は次々に現れて、命に危険の及ぶ仕事を依頼する。羽仁男は平然と死の穴へ飛び込んでいく。が、いつも羽仁男は助かり、依頼人が死ぬという結末で仕事は終わる。

物事をあんまり複雑に考えるのは止しになさるんですね。〜(略)〜 もっとも、いつでも死ねる気でなくては、そういう心境にはなれませんがね。生きたいという欲が、すべて物事を複雑怪奇に見せてしまうんです。

しかし羽仁男は、様々な強烈な体験を通じて、まだ死にたくないと感じ、死を恐れ始めていく・・・。

 

軽快なタッチに隠れた三島の「死」への思い

この小説の2年後、1970年に三島由紀夫は自衛隊市ヶ谷駐屯地で立て篭り、憲法改正のクーデターを呼びかけた末に割腹自殺します(三島事件)。 政治的思想の事はともかく、彼は一個人の魂に強くあれと叫んでいたように感じます。

c0109850_1865486(演説中の三島由紀夫)

 

羽仁男は会社勤めのニヒリストだったのが、死を賭した覚悟が肝が据わらせ、生命が輝きだします。彼にしか出来ないような仕事が舞い込み、羽仁男に出会うものはみな魅了されていきます。そこで命が惜しくなり、その結果死をも恐れぬ力を発揮出来なくなるという、にっちもさっちも行かない状況に陥ります。

三島由紀夫の自衛隊駐屯地のバルコニーで隊員に向けた演説の中に、このような言葉があります。

生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。

 

三島由紀夫自身の”覚悟”が実となって行動させていく過程の中で、この「命売ります」の羽仁男はそんな三島由紀夫の魂を代弁していたと思われます。

軽快に進む物語の陰に、どこか命の危うさを感じさせてくれます。

 

新宿を歩いていると、ディスカウント・セールの店の中へ入ってゆく娘のお尻にふと目が行った。いくら暖かい日でもコートを着ていないのが目立ったのだろうが、うすぼけた緑の格子縞のスカートのお尻が、ルノアールの描いた女のお尻のように豊かで、冬の日ざしを受けて、何かそこに生命の実質がぎっちり詰まっているような気がした。

作中での表現もキレキレです。

 

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