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2016.07.29

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レビュー

村上龍「半島を出よ」北朝鮮コマンドが福岡を占領するという話

またもやドラゴンさん。

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

 

あらすじ

2011年、失業率が10%を超え、アメリカにも見放され経済的に孤立状態にあった日本。そこに9人の北朝鮮コマンドが福岡に侵入し、プロ野球開幕戦が行なわれていた福岡ドームを占拠する。その2時間後に約500名の特殊部隊が博多に襲来。10日後には12万人の兵士が上陸する事になっていた。日本政府は一つとして手を打てず彼らによる占領をみすみす許してしまう。そんな中で立ち上がったのは、社会から拒否され排除され、また社会を見捨てた異端児たちだった。

 

北朝鮮側、日本政府周辺、アウトローの若者たちによる視点

2005年に刊行された近未来型小説。いやー、面白いよ。

上下巻でおよそ1000ページ越えという中々なボリュームのこの小説は、章ごとでそれぞれ視点が変わる。特に北朝鮮側の視点が多いんだけど、ここがこの小説のミソ。

尋常じゃない訓練で鍛えぬかれた北朝鮮と、たるみ切って多くの矛盾が吹き出た日本。読んでいると北朝鮮側に感情移入してしまいそうな演出がなされている。

上巻は常に「イヤな予感」が漂っていて、下巻はエンターテイメント性に富んだ展開。

上下で雰囲気は変わるし、話の流れはダイナミックすぎるくらいなんだけど、そこにはちゃんと説得力がある。

 

↓膨大な量の「参考文献」

S__3075277113ページに渡る参考文献

 

↓膨大な量の「登場人物」

S__3075277210ページに渡る登場人物(こういうページあると良いよね)

 

超細かい設定と人物描写。 圧倒的な情報量がリアルで緊迫した状況を作り出し、「こういうことが起きてもおかしくないな」と感じさせてしまう。

 

ヤドクガエル

この小説、何より表紙がいい。

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装丁デザイナー鈴木成一氏によるもの。かっけえ。

福岡上空の衛星写真と、赤と青の海。その上を這うヤドクガエル。
(知る人ぞ知る人気装丁家「鈴木成一」の仕事まとめ)

そしてそして、青酸カリの5000倍の毒を持つというこのヤドクガエルは、実は全編を通じてある事を表しています。それはこの物語をまとめる上で重要なポイントであり、村上龍がエネルギーを込めて伝えたかった事なのではないかと言えるんです。要チェック!

 

「昭和歌謡大全集」を読め

日本側から立ち上がったアウトローたち。通称「イシハラグループ」のリーダー格イシハラ。この男だけ明らかに異種で、どこか浮いている存在で、言動も色々おかしい。

そんなイシハラは、1994年ごろに書かれた小説「昭和歌謡大全集」に出てくるイシハラと同一人物。当時20代だったイシハラが、49歳の詩人となって再登場する。この小説も違う意味でぶっ飛んでるのでまた紹介しようと思う。

「半島を出よ」の前でも後でもいいからセットで「昭和歌謡大全集」を読むのが超おすすめ。

昭和歌謡大全集 (幻冬舎文庫)

 

最後に、北朝鮮による占領直後のTV中継を観ていたイシハラが仲間たちに言ったことを一部抜粋。

国家というものは必ず少数者を犠牲にして多数者を守るものだ。 (略) 問題は、守るべきものは何かということで、北朝鮮のあいつらはそれを骨の髄まで、パンパンに勃起した海綿体の一粒一粒まで知っているが、東京駅の夜をいろどる切ない雨に濡れたあいつはちんこのカスほども知らない。この戦いは、侵略者を殺す戦いであると同時に、少数者が死ぬのを見る戦いでもあり、誰でもあるとき少数者になるクリトリスクがあることを知る戦いになる。これは誰もあくびにもおくびにも出せないタブーだから、ぼくちゃんにしかわからない。それはぼくちゃんがいつ殺されてもおかしくない少数者として生きてきたからこそこそこそこそこそわかることで、おっかさんの子宮にいたころから自分は多数派だーいと思ってきたあいつは五億万回生まれ変わってもわからないだろう。

ちょいちょい表現がアレだけど、常に少数者を描き、少数者を自負している村上龍のマインドが伺える俺的にアツいとこ。

 

是非読んでみて!

 

半島を出よ〈上〉 (幻冬舎文庫)

 

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