俺はよくこのブログの相方レンジと家にある本やCDやDVDを交換している。
どの家にも大抵親父が買った本とかがあると思う、あれだ。
ある時期レンジが「村上龍がやばい、村上龍がやばい」と騒ぎ始めた。
俺はレンジの話をふ〜んくらいに聞いていたのだが、とりあえずこれを読めと、「限りなく透明に近いブルー」という小説を俺の部屋に持ってきた。
「読んどくよぉそこに置いといて。」
と言って俺はしばらく放置していたのだが、ある時テレビを適当に流しているとテレビ東京の「カンブリア宮殿」が始まった。
会社の社長さんを招いて、会社の官能力紹介と社長さんのお話をしてもらう番組なのだが、(官能力:「人間」として「強い」ということ)
VTR以外にも議論する場があり、社長さんのお話相手は、村上龍と小池栄子が務める。
官能力社長と官能力巨乳と村上龍が、官能力企業のシステムやマインドについて話し合うのだ、面白くないわけがない。
ある時、ワタミの渡辺美樹社長が番組に出演したのだが、村上龍はスタジオで彼をブッた斬った。
渡辺美樹「『無理』というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ」
村上龍「?」
渡辺美樹「途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります」
村上龍「いやいやいや、順序としては『無理だから→途中で止めてしまう』んですよね?」
渡辺美樹「いえ、途中で止めてしまうから無理になるんです」
村上龍「?」
渡辺美樹「止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる」
村上龍「一週間」
渡辺美樹「そうすればその人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう」
村上龍「・・・んん??」
渡辺美樹「無理じゃなかったって事です。実際に一週間もやったのだから。『無理』という言葉は嘘だった」
村上龍「いや、一週間やったんじゃなくやらせたって事でしょ。鼻血が出ても倒れても」
渡辺美樹「しかし現実としてやったのですから無理じゃなかった。その後はもう『無理』なんて言葉は言わせません」
村上龍「それこそ僕には無理だなあ」
ワタミが度々ニュースで話題になる理由が分かる気がする。
とにかく、俺は小池栄子を隣に侍らせて様々な企業のトップと語り合う村上龍の官能力の高さを見せつけられた。
これはレンジに借りた「限りなく透明に近いブルー」を読むタイミングが来たと感じた俺は速攻部屋に行って本を手に取った。
部屋の電気を消してベッドライトを着火。枕を壁に立てて布団に包まる。
1ページ目を開いた。
飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。
この調子で淡々と主人公と女の描写が書かれていく。
最初の30ページは、正直言ってつまらなかった。
だが、ページをめくる毎に徐々にこの小説のヤバさが伝わってきた。
本を借りた時にレンジがこう言っていた。
「何がやばいって、これ全部実話。こいつこれやっちゃってんの。」
そう、この本はおそらく実話。
主人公の名前はモロに「リュウ」。
村上龍はこの本が実話かどうかについて
「そう思っても思わなくても構わない」
と発言しているらしい。
これ「やってる」奴の言うことです。
当時の村上龍
30ページ目くらいからどんどん描写が加速していく。
物語は流れるように描かれているのだが、常に当たり前のようにドラッグとSEXがそこには存在している。
舞台は、福生の米軍基地エリア。
物語の内容の大半は、麻薬とSEXに溺れ、荒廃した生活を送る青年達の様子。(つまり、おそらく、村上龍といつメンの生活)
米軍基地の黒人たちとのドラッグパーティのシーンがこの小説では何回も出てくるのだが、
あるシーンで脚を束ね上げられた状態で騎乗位で挿入されながら黒人のち○こを軸に高速回転させられる女の描写があり、
レンジは気持ち悪くなって読み進めることが出来なくなり、一旦本を閉じたと言っていた。
209ページの短い小説なので一気に読み上げた。
この本の面白いところは、リアルなシーンが幻想的に描かれて、幻想的なシーンがリアルに描かれているというところだ。
物語の終盤、こんな文がある。
リリー、あれが鳥さ、よく見ろよ、あの町が鳥なんだ、あれは町なんかじゃないぞ、あの町に人なんか住んでいないよ、あれは鳥さ、わからないのか? 本当にわからないのか? 砂漠でミサイルに爆発しろって叫んだ男は、鳥を殺そうとしたんだ。鳥は殺さなきゃだめなんだ、鳥を殺さなきゃ俺は俺のことがわからなくなるんだ、鳥は邪魔しているよ、俺が見ようとする物を俺から隠しているんだ。俺は鳥を殺すよ、リリー、鳥を殺さなきゃ俺が殺されるよ。リリー、どこにるんだ、一緒に鳥を殺してくれ、リリー、何も見えないよリリー、何も見えないんだ。
「鳥」は、多分、「社会」のことだ。
息苦しい現代社会への強い反発心がみてとれる。
幻想的なシーンであるはずなのに、他のシーンよりもリアル。
逆に物語の大半の青年たちがドラッグを通じてくっついたり離れたりしている様子は淡々としてシンプルなはずなのに、幻想的。
その辺の書き方の新しさが評価されて、村上龍は芥川賞を受賞した。
そう、デビュー作でこれを世に送り出し、一気に最高峰の賞を手にしたのだ。
実話なのに。
彼は芸術という手段で社会をぶん殴ったのだ。
これを読んで俺らは村上龍にハマり、彼が書き上げた他作品「愛と幻想のファシズム」なども読み込んで、彼のヤバさについて語り合った。
小説なら何を書いてもいいのか。
おそらく彼は小説を通じて叫ぶしかなかったのだ。
そしてその表現は認められ、許された。
かっこいい。
かっこよすぎる村上龍。
こいつ分かってる。
あなたの生き様から様々なものを学んだよ龍さん。(  ̄_ ̄)
世界を好き放題旅しながら、好き放題言いたい事を言っているのだ。
「ブスは論外」「ビビンバはハシシに合う」「武田鉄矢はクズ」
こんな事を言って許されるのは今のところ日本では村上龍だけだろう。
彼の叫びは非常に痛快で、たまに言い過ぎだろと笑ってしまう。
すべての男に村上龍をオススメする。
こちらの「すべての男は消耗品である」という村上龍の叫び短編集も非常に痛快。
一度読み始めると止まらなくなる。
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