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2018.02.21

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レビュー

映画「ルーム」5年ずれて世界を認識するとどうなるのか

自分にとっての世界の捉え方を改めて再認識させられる映画。

赤ん坊の頃は誰だって無知で、自分の感覚と見る景色が自分にとっての世界の全てだった。

外に出て新しい景色に出会って、自分にとっての世界がどんどん構築されていく。

いろんな人と出会いコミュニケーションを取り、いろんな場所にいって空気を感じて、自分の舵取りで「世界」を歩んでいく。

では、その「世界」とはなんなのだろうか。

room

 

概要

「ルーム」
2015年のアイルランド/カナダの映画
第88回アカデミー賞主演女優賞受賞作品
原作:エマ・ドナヒュー「部屋」
監督:レニー・エイブラハムソ

 

あらすじ&ネタバレ

前半

映画は一つの小汚い部屋に住む5歳児の男の子(ジャック)とその母親(ジョイ)の二人の生活風景から始まる。

狭い部屋(「ルーム」)の中でストレッチをしたり楽しそうに走り回ったりして戯れる二人。

family

しかし、その部屋から出られることはない。

その母親は7年前にある男に誘拐され、その男の家にある納屋に監禁されたのだった。

誘拐犯の男は2人が住むその部屋に物資を運ぶたびにジョイを犯した。

そしてその結果、誘拐犯とジョイの二人の間にジャックが生まれた。

 

ジョイは狭い部屋の中でもジャックがちゃんと育つように工夫をしながら二人の生活を送っていく。

ジャックにとっての世界の全てであるこの部屋の中でジャックが幸せに過ごせるように優しい嘘をつく。

しかし、ある日事件が起きる、寒い真冬にもかかわらず部屋の電気が止まってしまう。

この事態を機にジョイはジャックを脱出させることを決意をする。

ジョイは作戦を立て見事に誘拐犯を騙し、ジャックはこの狭い世界を脱出することに成功する。

face

 

後半

ジャックにとっては全てが新しく、外の世界は何が何だかわからなかったが、母親ジョイに言われたいいつけを守り無事警察に保護され「ルーム」も発見されて、ジョイも7年ぶりに解放された。

しかしこの7年間で失ったものや壊れてしまったものに、元の世界でジョイは直面することになる。

心に蓄積したこれまで耐えてきた辛い経験、7年間前に娘(ジョイ)を失い人生が壊れてしまった両親との関係、そして、愛するジャックが憎き誘拐犯との子だという消し去ることのできないジレンマ。

一方のジャックは新しい世界に戸惑いながらもその世界に触れようとしていく。

しかし、5歳のジャックにとっては「ルーム」の中の母親との二人の世界こそが人生だった。

「ルーム」から解き放たれ広い世界に来た二人は目の前の現実に適応仕切れず、歯車が狂っていき、ジョイは自殺未遂を起こしてしまう。。

 

 

 

この映画で一番シーンは、ジャックが「ルーム」を脱出し空を見上げたところ

この映画は他のレビューなどではよく「ただの脱出劇だけで終わらさず、そこからの人生がどうなっていくのかを主眼に描いたことだ」と評価されている。

もちろん、このストーリー展開や描かれる人間の心理も面白いのだけど、個人的にはそういうことよりも、ジャック視点で描かれる未知なる広い世界に放たれた瞬間の衝撃を描写するシーンが何より響いた。

「ルーム」で生まれ「ルーム」で育ったジャックにとって、部屋の景色と母親との関係性だけが全てだった。

しかし、その狭い限定的な世界を出た瞬間、そこにはルームの高い天井にある小さな天窓サイズでしか見たことがなかった「空」があった。

sky

「空は広い」という事実が当たり前ではない時が誰にでもあったはずだ。

まだ飛行機雲をみて興奮できたような、あの無知がもたらすこの世界への感動。

そういう感覚が自分の中にもあったということを思い出させてくれるようなシーンだった。

人は人生の中でそういった未知への感動に一つずつ慣れていって、自分にとって当然となった認識を積み重ねていき、自分にとっての世界を構築していく。

当たり前となってしまった存在は、実際にそれがなくなった状態を体験するか、それを当たり前としない人物の感動を追体験することによって、その有り難みを知ることができる。

この作品で描かれる極端に狭い世界(無知)から解放されたジャックを観ることによって、自分の世界の「広さ」が当たり前じゃないんだと気づくことになる。

 

 

世界は自分の小さな存在に比べて、とてつもなく広くて、変化し続けていて、その中で自分はこれからも死ぬまで未知と遭遇し続けるのだ。

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